From the Field ~難民支援の現場から~ With You No. 54より / 牧野 アンドレ UNHCRアンカラ事務所 准第三国定住担当官

公開日 : 2025-10-01

UNHCRアンカラ事務所 准第三国定住担当官
牧野 アンドレ(まきの あんどれ)

牧野職員

「お父さんとお母さんはどこにいるの?」私の質問に空を指さす少女。空爆で両親を失いたったひとりになったシリア人の少女は、親戚に引き取られてギリシャまで逃れてきていました。こういった経験をしている人々が、難民になっているのか。そう痛切に感じた出来事でした。あれから10年が経ち、私はいまトルコで第三国定住担当官として難民支援に携わっています。
昨年12月のアサド政権の崩壊後、トルコからは8月末時点で45万人以上がシリアに帰還していますが、この国にはまだ200万人近いシリア難民の方たちがおり、中にはさまざまな事情により帰還できない方々もいて、多くの人が支援を必要としています。偏見を持たれたり差別を受けたりしやすいシングルマザーとその子どもたち、LGBTIの人々、特定のマイノリティグループの人々をはじめ、国に帰ることのできない人たちも少なからずいるのが現状で、第三国定住のニーズも依然としてあります。
先日お話を伺ったトランスジェンダーの女性の方も国に帰ることのできない一人でした。彼女はこれまでトルコで友達と一緒に生活することでやっと生活できていたのですが、友人が皆シリアに帰ることになり、一人になって家賃も払えなくなりました。ホームレスとして路上で暮らしていると暴力を受けるリスクも高くなるのですが、いまは住所もないので政府が発行しているIDも失効し、骨折しているのに治療も受けられないという状況です。第三国定住の可能性も含め、どうにか彼女を支援できないか模索しています。しかし、各国の拠出金の削減により現在UNHCRは深刻な資金不足に直面しており、彼女のようにトルコで支援を必要としている人々へのサービスの質の低下が懸念されています。
私の主な業務のひとつに、事務所を訪れた難民の方の話を伺い彼らの抱えている問題やニーズを特定し、提供できるサービスについて情報提供をしたり、第三国定住に関する話をしたりするケースワークがあります。そのなかで、最近は難民の児童労働も増加しているように感じます。シングルマザーで元夫から暴力を受けていたというような人たちに、UNHCRは金銭的な支援をしていました。しかし、最近こうした方々への支援が止まってしまった影響で 、12、3歳くらいの男の子が家族を助けるために学校をドロップアウトし、建設現場で働かざるをえない状況に追い込まれているということが起きているのです。第三国定住は子どもたちの権利を守り、彼らが新しい国で教育を受ける機会を提供することにもつながる大切な施策です。しかし、いま各国では第三国定住の枠がさらに狭められつつあり、難民の方々をめぐる状況は以前にも増して厳しいものになっています。
こうした日々のなかで、時おり訪れる喜ばしい瞬間はやはり、難民の方が無事に第三国に出発できたことがわかった時です。特に印象に残っているのは、2023年2月にトルコ南東部で起きた地震で家族を失った19歳のシリア人の女性が第三国に受け入れられたときのことです。彼女は一人で買い物に出ている時に地震が起き、家が倒壊して家族を亡くしました。帰る家もなく家財道具もすべて失い、かつ女性一人で暮らしていくのは本当に大変なことなので、プロテクションチームとも連携しながら彼女の安全を第一に考え、はじめのケースワークから数か月以内にお姉さんが暮らすカナダに送り出すことができました。ひとりの難民の方の人生に少しでもポジティブな影響を与えられるよう支援できたことをとてもうれしく思いました。
内戦激化に伴い、電気や通信は切断、物流インフラは寸断され、支援対象者へのアクセスも難しくなるなど、人道支援に大きな影響がでています。職場では故障しがちな発電機と不安定なインターネットや通じない携帯電話に悩まされながらも、必要な方々へ迅速な支援を届けるよう、職員一同日々奮闘しています。
この仕事には人の人生がかかわっているということ。そのことを、いつも忘れないでおきたいと思っています。それは自分が仕事を続ける活力でもあり、また一方で、重い責任を伴うものだということを肝に銘じています。各国の情勢などにより拠出金が減り、UNHCRも厳しい局面に立たされるなか、民間の方々からの変わらないご支援は大変大きな力になりますし、とても励みになっています。そしてその思いに応えていかなければと強く感じています。

* 第三国定住とは
難民が最初に庇護を求めた国から受け入れに同意した第三国に移動し定住すること。トルコは世界でもっとも多く第三国定住の送り出しをしている国で、去年だけで1万770人が同国から旅立った。

プロフィール

1993年静岡県浜松市生まれ。学生時代にドイツで「欧州難民危機」を目の当たりにし、難民支援の道を志す。これまでギリシャ、ヨルダン、日本、イラクで難民支援の現場に従事。2024年よりUNHCRアンカラ事務所で准第三国定住担当官として勤務している。

X

このウェブサイトではサイトの利便性の向上を目的にクッキーを使用します。詳細はプライバシーポリシーをご覧ください。

サイトを閲覧いただく際には、クッキーの使用に同意いただく必要があります。

同意する