【レポート】第19回難民映画祭・オープニングイベント上映イベント
2024年11月7日(木)、TOHOシネマズ 六本木ヒルズで第19回難民映画祭のオープニング上映イベントが開催されました。340名収容できるスクリーンはほぼ満席となり、18時30分にオープニング上映会がスタートしました。オープニングを飾ったのは、日本初公開となった「ザ・ウォーク~少女アマル、8000キロの旅~」(原題:The Walk)。タマラ・コテフスカ監督とジャン・ダカール撮影監督によるトークイベントが行われました。また、2022年に制作された詩の朗読劇「リスト:彼らが手にしていたもの」も上映され、関根光才監督よりご挨拶がありました。(進行役は国連難民サポーターの武村貴世子さん)
公開日 : 2024-11-20
詩の朗読劇『リスト:彼らが手にしていたもの』の上映
第19回難民映画祭の説明の後は、2022年の「世界難民の日」に公開された詩の朗読劇『リスト:彼らが手にしていたもの』が上映されました。長さは8分43秒。わずか10分足らずで、家を捨てて逃げねばならない、そういう状況におかれた人たちが家から持ち出したモノの名前、それが次々に読み上げられていきます。考え込む暇はありません。命の危険が迫っているのです。SIMカードやスマホ、ヘッドフォンなど、私たちが今まさに使っているものを持って逃げています。あなたなら何を持って行きますか…?10名の俳優の方々が、難民という状況に置かれた人々になり切って演じており、まさに心を震わす朗読劇です。まだご覧になっていない方は、ぜひ、こちらをご覧ください。
関根光才監督のインタビュー
詩の朗読劇を上映した後には、本作を制作した関根光才監督の挨拶とインタビューが行われました。
撮影の背景や裏話についての質問には、「これは手作りの作品で、衣装も俳優さん自前のものをご用意していただいています。このような映像は一過性のものではないので、皆さん自由意志で、それぞれ色んな背景や思いを持って出演されていることに非常に感謝しています。撮影前に国連UNHCR協会から今の難民の状況についてなどの1時間半の講義を受け、全員が『自分たちにできることは何か』ということを探って、心をひとつにして撮影に臨みました」と話しました。
また、「戦争が日常となっている今の世界情勢についてどう感じておられるか」という質問には、「残念ながら、世界の状況はむしろ悪化している感覚でいます。パレスチナのように虐殺が起きているのに国から出られない状況となっている場所もありますし、世界はどんどん悪化していくかもしれないと思っています。それと同時に、TVを付ければバラエティ番組が放送されているという、この世界には『無関心』という並行世界があるという感覚でいます。そして、難民映画祭のような作品は、そちらの世界に対してアプローチしてくれる大切な表現だと思っています」と答えました。
そして、映画をご覧になる方へのメッセージは、「作品を観て感じたことをシェアしてください。僕には戦争が始まってからコンタクトを取るようになったウクライナの友人がいるのですが、彼女が『世界が私たちをちゃんと見てくれていないことは分かっている。』と絶望しているのが記憶にありまして。世界の中では、アメリカ大統領選の結果を見て(トランプが勝った)、そして株価の話をしているみたいな状況が続いていますが、このような映画を観て、自分に何ができるのか、それを話すだけでも、どこかに希望の種をまけると思います。勇気をもって、家でも学校でも、友達にも話をしてもらいたいです」と話しました。
『ザ・ウォーク~少女アマル、8000キロの旅~』の上映

>>『ザ・ウォーク~少女アマル、8000キロの旅~』をオンラインで視聴する
タマラ・コテフスカ監督と、ジャン・ダカール撮影監督のインタビュー
上映後はこの作品のタマラ・コテフスカ監督と、ジャン・ダカール撮影監督が登壇し、インタビューが始まりました。
コテフスカ監督が登場されると、鮮やかなブルーのドレスが目を惹きました。黒い幅広のベルトは帯のようにも見えます。日本の着物からインスピレーションを受けて、監督の出身国である北マケドニア共和国のデザイナーに作ってもらったそうです。
おふたりとも初来日とのことで、行ってみたい場所について質問すると、ダカール撮影監督は日本の歴史や鹿と触れあえる奈良に、そしてコテフスカ監督はあちこちの美術館、なかでも宮崎駿監督の「三鷹の森ジブリ美術館」には必ず行きたい、とのことでした。「実は子どもの頃から宮崎駿作品に影響を受けていて、映画監督になったのは彼に憧れたから」と話された時は、皆驚きました。
「この作品を撮ることになった背景」については、「出身国の北マケドニアとギリシャの国境付近では、難民がひどい扱いを受けている問題があり、以前から難民問題には関心を持っていた」こと、そして「コロナが明けた後、人形の旅公演を追ったドキュメンタリー映画を撮らないかと、南アフリカ共和国にある人形劇団、Handspring Puppet Company(https://www.handspringpuppet.com/)に声をかけてもらったことがきっかけとなった」ということでした。映画には、職人さんが木をくりぬいてアマルを作っている過程や、人形遣いが懸命に動きの練習をしているシーンが映ります。アマルがこれほどリアルに映るのは、このような人たちの深い思いが込められているからだろうと感じました。
「撮影中、最も印象に残っているエピソード」を聞かれると、コテフスカ監督は次のように話しました。
「アマルが旅をする過程を追っていく中で、一番印象に残ったのは、ヨーロッパの大人と難民の子どもたちの、アマルに対しての正反対とも言える反応です。大人は「難民」という非常に大きな問題と直接結びつけて考え、アマルを脅威とみなしました。反対に子どもたちは、アマルの近くに寄ってきて手に触れ、楽しい気持ちにさせる、友だちや遊び相手として捉えたのです。それを見て私は、アマルが難民の子どもたちの未来に希望を与える存在になるのではないかと考え、この映画を子どもの視点から撮りたいと考えたのです。」
ダカール撮影監督への、「撮影の際に苦労した点」についての質問には、2つの点が挙げられました。1つめは「アマルがあまりに大きいため、良いショットを撮ることが難しかった」ということ。そしてもう1つが、「難民たちと出会って話を聞いた後に、冷静さを保って仕事を続けねばならなかったのがとても大変だった」というお話でした。
また、映画の構成についても、ダカール撮影監督からお話がありました。この映画には、アマルという人形とアシルという名の実在する難民の少女が登場しますが、「特にアシルについてはシネマティックな手法を用いて、できるだけ親密的な感じを引き出そうとした」とのことです。そうすることで、「マスメディアによって作り上げられた、難民とその他の人々を分け隔てているバリアを壊したかった」ということでした。映画をご覧になった方々はきっと、「何とかしてアシルを助けてあげられないだろうか」と思われたのではないでしょうか。あまりにも孤独な様子が見ていられない程つらく、寄っていき抱きしめてあげたくなるような、そんな気持ちでいっぱいになってしまうのです。
「この作品を通して世の中に一番伝えたいこと」という質問に、コテフスカ監督はこのように答えました。「撮影後1年の間に、紛争や大地震により映画に映っている多くの場所が破壊され、多くの人たちも亡くなり、映画自体が保管記録(アーカイブ)となってしまっています。しかし、そんな状況の中でも、多くの難民たちは自力で生き延びているのです。アシルはイスタンブールで暮らしていますし、ヤジディ教徒の男の子は今ドイツで暮らしています。」そして力強く、こう続けました。「希望はあるのです。映画制作者がそう見せようとしているのではなく、実際に希望がある、そのことを伝えたいと思います。ニュースで伝えられる難民の話題は希望が持てない話ばかりですが、実際には、希望が持てる話も存在しています。それを、ポジティブな例として世界に、そして、現在難民となっている人たちに伝えることに価値があると、それが私たちの義務だと思いました。難民たちや、これから難民になるかもしれない人たちは、諦める必要はないのです。一人ひとりに権利もある、世界のどこかに居場所もある、それが当然のことなのです。」
最後の質問は「日本の皆さんへのメッセージ」でした。どちらも全文お伝えしたいと思います。
ダカール撮影監督:
「日本の皆さんが90年代の初めからパレスチナ難民の支援をしてくださっていることに感謝しています。また、パレスチナ問題に関心を持ち、特に若い活動家たちが街頭で抗議活動を行いパレスチナの人々との連帯を示してくださっていることにも心から感謝しています。この映画が、日本の皆さんにとって、こうした問題に関心を抱く更なる機会となることを願っています。」
コテフスカ監督:
「私からは2つのメッセージがあります。まず1つめは、『社会の発展のためにも、難民に対しての偏見を打ち破っていただきたいということ』です。難民は政府の支援を待っているだけの存在ではなく、才能もあり非常にひどい境遇の中でも生き抜いている特別な人たちです。チャンスを与えなければならないのです。私たちもいつ自分の国で戦争が起きて同じような状況になるか分かりません。私たちは彼らに、チャンスを与えねばならないですし、それを通じて社会が良くなっていかなければならないのです。」
「そして2つめは、『もっと多くの方にドキュメンタリー映画を観ていただきたい』ということです。インパクト映画とも呼ばれますが、そういった映画を見る人が減ってきています。映画と言えば娯楽という風潮ですが、映画の真価と存在意義をもっと追及してもらいたいと思います。映画には社会や個人を変える力があります。信じていただけるか分かりませんが、私自身も日本の映画に大きな影響を受けています。映画はハリウッドだけではありません。日本の映画やマケドニアの映画だけでなく、ハリウッド映画以外の、各国そのままを映し出している映画をぜひ見てもらいたいです。」
おふたりがこの映画にどんな思いを込めたのかがダイレクトに伝わってくる、とても素敵なインタビューでした。
最後に
最後に、第19回難民映画祭には、自分自身も微力ながら映像翻訳と言う形で関わることができました。そして翻訳の過程で難民の問題を学んだことで、これまで気に留めていなかった事柄に関心を持ち、以前より広い視野で世界を見られるようになったと実感しています。さらに、広報サポーターに参加できたことで、1人でも多くの方に映画を観ていただくにはどうすべきか懸命に考え、次々に実行していく人たちの姿を見ることができました。そして、人を助けたいという優しさが源となったパワーはすごく大きいのだと、改めて知ることができました。とても嬉しい気持ちでいます。皆さんのパワーもぜひ分けてください。そして、1人でも多くの方に映画を観ていただき、難民の問題について知っていただけますように。そして少しでも多くの寄付金を、今まさに必要としている方たちへ届けられますように。そう願っています。
>>第19回難民映画祭(11/7-11/30開催)
>>第19回難民映画祭・広報サポーター
【レポート:第19回難民映画祭・広報サポーター 青井夕子】

