第20回難民映画祭 字幕でつなぐ難民支援の輪 ー 大学生による字幕制作の裏側をお届け!青山学院大学編 ー
第20回難民映画祭で上映される映画『ハルツーム』(原題 Khartoum)と『希望と不安のはざまで』(原題 Syria: Between Hope and Fear)の日本語字幕は、それぞれ青山学院大学総合文化政策学部の「ラボ・アトリエ実習」の1つである「映像翻訳ラボ」と、明星大学国際コミュニケーション学科の学科科目である「映像翻訳」の講義を履修する学生たちが、日本映像翻訳アカデミー(JVTA)の監修のもとで制作しました。この記事では、そんな学生たちによる字幕制作の現場を訪問して取材した、字幕制作に奮闘する彼らの想いや作業工程を紹介します。映画公開に至るまでの「裏側」をぜひお楽しみください!
公開日 : 2025-11-20
■日本映像翻訳アカデミー(JVTA)は、2008年から難民映画祭を字幕制作で支援しています。詳細はこちら
作品を届けるために欠かせない「字幕制作」の裏側
上映作品を日本の皆さんにお届けするために欠かせない「字幕」ですが、その制作は協賛企業である日本映像翻訳アカデミー(以下、JVTA)にプロボノ(職業の専門性に基づく知識や経験などを生かして行う無償の社会貢献活動)でご支援をいただいています。またその一環として、青山学院大学・明星大学の皆さんには、JVTAの指導や監修のもと、一部の上映作品の字幕制作に協力いただいています。学生たちによる字幕制作のプロセスは、JVTAの講師から字幕制作の基礎を学ぶことから始まります。その後、翻訳を担当する作品が決まると、作品の背景情報のリサーチを行いながら、「ベタ訳」と言われる、原文を直訳した未加工の文の作成に進みます。そしてそのベタ訳をもとに、字幕のルールやセリフの長さ、文脈などを考慮しながらリライトを重ねて最終的な字幕が完成します。
「背景を知ることで深まる難民支援の共感を観客にも」青山学院大学総合文化政策学部「映像翻訳ラボ」
2010年から活動を続ける「映像翻訳ラボ」には、今年度、2年生・3年生の計4名の学生が参加。宮澤淳一教授の指導のもと、字幕翻訳を中心とした活動を行っています。そんな彼らが字幕制作を担当したのは、第20回難民映画祭のオープニングを飾る『ハルツーム』です。
学生たちはまず作品の背景にあるスーダンの国内事情、歴史、宗教といった膨大な情報のリサーチを実施したうえで、学生それぞれに割り当てられた担当箇所を翻訳していきます。それから宮澤教授とともに表現、ニュアンス、表記、音声と字幕の呼吸感の一致などを入念に確認します。8月初旬の取材時には、字幕の最終調整の真っ最中でした。会議室内では、「この表現は不自然だね」「この文章はどこで(表示を)区切るのが適切?」といったような言葉が飛び交い、字幕作りへのこだわりが垣間見える場面も。

写真:字幕制作現場@日本映像翻訳アカデミーオフィス
©国連UNHCR協会
字幕制作に取り組む学生たちに話を聞きました。
― 字幕制作を行う上で意識していることを教えてください。
ガイさん:
実際の翻訳作業に入る前に、まず私たちが取り掛かったのは『ハルツーム』の舞台となるスーダンについてのリサーチです。同国の歴史、宗教、現在進行している紛争の経緯など、作品を深く理解するために欠かせない背景知識を入念に調べました。予備知識なしに見れば受け流してしまうような部分も、下調べによって、登場人物の事情がわかり、共感をもって向き合えたと感じています。
- 『ハルツーム』というオープニング作品の字幕制作に携わる中で、特に印象に残っていることはありますか?
寒野さん:
本作品は、国内の戦況が悪化する直前までスーダンで暮らしていた5人の語りによって進行します。彼らの記憶にある、紛争前の平穏な人々の営みと、争いが勃発した暴力のシーンとの対比が印象的でした。紛争の暴力によって日常生活が奪われるとはこういうことかと思い知らされたからです。
- 映画祭を通じて「こんな人に、こんな思いを届けたい」といった願いはありますか?
加賀美さん:普段ニュースを見るだけでは感じられない、「難民」といわれる人々のリアルな姿が詰まった本作品の魅力を伝えるために、作品を見た人が自然と理解できる「考えさせない訳」を作成することが自分たちの役割だと考えています。
林さん:
私自身この作品の翻訳に携わるまで、スーダンの現状どころか、国自体のイメージすらわかず、予告編で暴力の描写があるだけでも「身構えてしまう」感覚すらありました。それでも、本作品は「人」を中心に展開する構成のため、難民という存在をいっそう身近に感じられるきっかけになると思います。作品からはスーダンの文化や日常生活が垣間見えます。それに触れることで、そういった難民への共感が観客を中心に広がっていくことを願っています。
- (宮澤先生)学生に指導をする上で、特に意識していることはありますか?
宮澤先生:
学生も述べていましたが、「考えさせない訳」を目指させています。つまり、字幕を読んで、どういう意味なのかと観ている人が考え込んでしまったら映画は先に進んでしまうので、困るわけです。だから、読んだとおりの意味でその場でそのままわかる訳文にしなくてはいけない。それが難しいのです。また、作品に対する事前知識があるかないかによって、学生の理解度も表現の説得力も異なるため、リサーチを徹底してもらっています。これまでも映画祭終了後に「難民映画際パートナーズ」の自主上映会をやることもあり、そのときには配付プログラムや特設解説サイトを作成したり、監督への独自インタビューを実施したりと、作品への理解をいっそう深め、聴衆にもそれを伝えてきました。

©国連UNHCR協会
「責任ある作り手の1人として字幕制作に取り組む」日本映像翻訳アカデミー(JVTA)
JVTAは、学生たちが字幕制作を行うにあたって、字幕翻訳の基本を学ぶための事前指導と字幕の最終チェックの役割を担っています。JVTAで難民映画祭に関わるお二人に、字幕制作にかける想いを聞きました。
- 学生への指導・研修において心がけていることはありますか?
桜井さん(映像翻訳の指導や監修を担当)
字幕制作は「単なる作業や課題」ではなく、日本語版の作品制作の一端であり、翻訳するからには「作り手」の一員としての責任を果たすように、ということを伝えるようにしています。日本語の字幕が無ければ映画の内容を理解できない方がいます。ですので、字幕はその作品を代弁するものであり、字幕を作るということはすなわち「日本語版の作品」を作っていると考えることができます。まずは字幕制作者である私たちが、作品で描かれる難民となった人々の人生に真摯に向き合う。それによって作品を「単なるコンテンツ」として終わらせず、観客にとって意味あるものにすることに貢献できると信じています。
- 第20回を迎えた難民映画祭ですが、これまでの経験も含めて何か心がけていることはありますか?
池田さん(JVTA広報として映画祭の紹介記事を担当)
映画祭が20回を迎えたことは素晴らしいことですが、私は主催の皆さんの「本来、難民のいない 世界こそが、 私たちの願いです」という言葉が強く印象に残っています。しかし、現実には避難を余儀なくされる人たちは増え続けています。私は10年ほどJVTAの広報としてこの映画祭を紹介し、翻訳者に字幕制作の協力をお願いしてきました。翻訳者はみな、難民の「数」ではなく、一人ひとりの想いや背景を伝えたいと強い使命を感じて字幕づくりに向き合っています。今後もこうした想いを絶やさずに翻訳者ならでのカタチでこの映画祭を支援していきたいと思っています。
明星大学国際コミュニケーション学科「映像翻訳」は、第20回難民映画祭2025の上映作品「希望と不安のはざまで」の日本語字幕を、日本映像翻訳アカデミーの監修のもと制作しました。字幕制作の裏側はこちら
字幕制作でつながる難民支援の輪
本記事では、青山学院大学「映像翻訳ラボ」と、明星大学「映像翻訳」の講義を履修する学生たちが担当した第20回難民映画祭上映作品『ハルツーム』(原題 Khartoum)と『希望と不安のはざまで』(原題 Syria: Between Hope and Fear)の字幕制作の裏側をご紹介しました。
私たちが取材した学生たちは、自分たちが制作する字幕が、ひとりでも多くの人の共感や感動につながることを目指して、とても真摯に作品と向き合っていました。彼らの一文字一文字の積み重ねが、難民の声や日常を観客に届け、共感の輪を広げる力になっていることを改めて実感しました。

